入社して2年目だったろうか。「私たちも記者クラブに所属させてください」とデスクに頼み、河端由美子ちゃんと女性遊軍記者二人の「クラブ活動」が実現した。私たちは、郵政記者クラブ、農政記者クラブなどの記者室に出入りした。1977年当時、女性記者はごくわずかだった。TKUの矢部絹子さんは私より少し年上のキャスターで、記者クラブにも所属しカッコよかった。仲良しになり、大阪でアナウンサーもしていた経験を持つ大先輩竹内明子さん、アナウンサーの岡田佳子ちゃん(現姓服部)らも交えて飲みに行き可愛がってもらった。焼き鳥の手羽先を初めて食べた。上司の愚痴を飲みながら吐くのも楽しかった。
報道部は男所帯。個性的な記者やカメラマンの中には仲が悪い人もいて、泊まりの取材に行くと互いの悪口を言う。聞くのは辛かった。女性は上司の愚痴を言う以外は、互いに悪口を言わない。愚痴と悪口は違う。愚痴は自分が悪いと分かっていて嘆くのを聞いてもらうことだ。一方、悪口は陰での相手の誹謗中傷なのだ。潔いのは女性だ。以来、私は女性の上司に可愛がられ、部下にも恵まれ、女性で苦労したことは一度もない。
公的な場にもっと女性が増えると風通しの良い社会になるのではないか、と思っていて、事実、壺溪塾では女性管理職の割合が高く、男性が育休を取れる環境にある。特に女性の少ない政治の場面では、北欧諸国を見習ってクオーター制の導入をしてはどうか。日本において、既得権益を持つ政治家たちはそれを手放そうとはせず、改革は難しいのは分かっている。また小選挙区制という制度自体にも欠陥があるかもしれない。ただ私たちの1票は貴重で、その積み重ねが、少しずつでもよりよい方向へと日本を導くのは間違いない。問題意識を持つことと問題提起をすること、それは一市民であってもできる。若者にも諦めず投票に行って欲しい。
決定権を持つためにはトップを目指さねばならないが、トップに女性は少ない。それは女性の方が率直で公平だからか。率直に提言できる人より、上司に忖度する人が昇進していく。コミュニケーション能力という言葉にすり替えられ、忖度は日本社会のあらゆる場面に存在する。しかし私は忖度されるかどうかを、人事の指標とはしたくない。むしろ首を掛けて率直に提言してくれる人を重んじたい。陰での批判ではなく直接に、だ。そもそもコミュニケーション能力と忖度とは違う。忖度は自分を守るために嘘をつくことである。一方、コミュニケーション能力のある人は、他者の言にも謙虚に耳を傾けるのであり、その能力は、自分のためではなく、大義のために発揮される。大義とはその組織のためにあるものだ。報道部では私はコミュニケーション能力を駆使し、視聴者のために弱者目線の報道を心がけた。また、壺溪塾では何より塾生のために、競合他校よりも高い実績を生み出すために「忖度」ではなくコミュニケーション能力を発揮したい。
紹介する本:『書いてはいけない日本経済墜落の真相』森永卓郎
日本社会に巣くっている忖度文化は根が深いものだと感じます。個人的な関係性を築くときには忖度は潤滑油のようなものになるので、これがまったくない人は嫌われる場合もあります。私たちは知らず知らずのうちに多かれ少なかれ他者に気を遣うということとともにある日常を送っています。
ただこの忖度が組織を挙げてのものだったり、権力者に忖度するあまりいろんなことを自粛することで、その社会が歪んだものになるのは避けなければなりません。芸能界で単なるスキャンダルという以上に犯罪にまで発展したジャニーズ事務所の問題は、どちらかといえばマスコミ界が事務所に忖度した結果、長い間隠ぺいされてきたという側面があります。
この日本社会に存在する“忖度”について三つの事例を挙げて糾弾する書を紹介します。テレビにも出ている経済アナリストの森永卓郎さんが書いた「書いてはいけない日本経済墜落の真相」です。森永さんは2023年12月にすい臓がんのステージ4の宣告を受けました。最後の力を振り絞って書いたというこの本の第1章にそのジャニーズ問題が書いてあります。また二つ目のテーマ、財務省についての彼の見解は、私はすべてが正しいとは思いませんが、クリティカルティンキングの視点で読むこと、また関連した官僚組織についての本を併せて読むことをお薦めします。さらに3については、衝撃の内容ですし、真偽のほどはまだ分かっていませんが、私も彼が言うように日航は大きな話題を集めているこの事故のフライトレコーダーを開示してほしい、相模湾に沈む尾翼を引き揚げてほしいと強く思います。3については森永さんが触れている青山透子さんの本を併せて紹介します。私は数年前にこの本を読みました。また遺族の中にこの日航機墜落の真相を究明したいと今も活動している人がいることも知りました。小田周二さんです。彼も本を出しています。