社会的に他に二つとない仕事をしていた教育者の父、木庭家と壺溪塾を守るために家事やアットホームな壺溪塾の雰囲気を守ってきた母。当時の壺溪塾は間違いなくこの二人の努力があってこそ輝いていた。
これに対し、生意気にも「男は外、女は内という価値観はおかしい。私は両方できる人になる!」と息巻いていた私。それが間違っていたとは思わないが、少なくとも私は二人と違ってやはり中途半端だ。人は大抵一つを得たらもう一つを失うものだ。器用な人は少ない。もちろんたとえば大谷翔平選手のように打つのも投げるのも超一流という二刀流も存在する。「なぜどちらもやろうと思ったのですか」と聞かれたときの彼の答えに共感する。「だってどちらも違う点があるので別の面白さがあるから」。本当にそうだなと凡人の私も思う。中途半端ではあるが、家庭での家事や子育てと仕事はどちらも別の面白さがあり、それぞれにその活動でしか得られないワクワク感があった。
特に子育ては面白かった。たくさん本を読み頭でっかちな母親だったが、子どもの個性とこちらの対応の微妙な違いで、二人の娘はそれぞれに主体的で個性的な子に育った。こんな大人になってほしいなあという漠然とした像は「自分から他者を愛する子、だからこそ他者から愛される子、明るくて強い子、自分もまわりも幸せにできる子」というものだった。今は東京と京都で独立しそれぞれ家庭を築き、子どもにも恵まれているが、少なくとも二人は幸せであると感じられ、時々孫の楽しみを授けてくれる有難い存在だ。孫は聞きしに勝る可愛さで、こちらが年取る分、若い無邪気な魂が魅力的に移る、という真実も相まって熊本のおばあちゃんはメロメロだ。
小さなフワフワした手に触るだけで癒される。抱きしめたりする接触の持つ癒しは実際にあると感じる。日本人は身体の接触での挨拶はあまりしないが、握手したり抱きしめたりすることの中に確たる癒しが存在すると思うので、孫と暮らせるおばあちゃんは幸せだ。東京と京都にいる四人の孫達も膝に乗ってくれたり、抱っこさせてくれたりする。1947年に50代だった平均寿命は50年後、80代にまで延びた。たった半世紀で寿命が30年延びたことになる。1947年には孫に会えるおばあちゃんはそう多くなかった。我が家の両親は亡くなる前、ひ孫が9人いた。現在はプラス1の10人になっている。
合計特殊出生率がついに1.2になった日本。東京はブラックホール自治体と呼ばれ0.99だそうだ。日本では比較的高い熊本は1.46である。しかし、理論上は2.06ないと人口がどんどん減っていくという。大人が子育てのワクワク感、面白さをもっと伝えるとともになるべく経済的にもできるだけ手厚い手助けがある社会でありたい。女性が二刀流をしやすくなり、豊かな子育てをできる国を目指すべきだ。
紹介する本:『叱らない子育て』岸見一郎
次女を育てているとき、子育てにおいて「叱らない」方が良いという本に出会い、なるほどと思いました。岸見一郎さんのこの本はアドラー心理学に基づいて書いてあります。
オーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラーが創始したアドラー心理学では、人は、個人の悩みを過去に起因するのではなく、未来をこうしたいという目的に起因して行動を選択している、と捉えています。アドラー心理学は、認知の歪みがある人や、感情と言動に不一致がある人に対して有効であり、周囲の同調圧力が煩わしければ、いっそのこと関係性を切り、自分が本当に歩みたい人生を、主体性に積極的に生きていくことを推奨しています。この岸本さんの本はそのようなアドラーの個人心理学をベースに書いてあり、親が子どもを叱るのは、感情で叱る場合が多いことを問題提起されているように感じ、次女はなるべく叱らないで育てようと思いました。
長女は、私がおばあちゃん子で甘やかされたので苦労した面が多かったという反省から、なるべく厳しく育てようと思って育てました。ただ抱きしめたりぎゅっと可愛がったりしたのは二人ともそうで、親ばかですが、二人は本当に可愛かったので、一生懸命愛を注ぎました。また夫は私よりも冷静で、私が怒るときなど、「子どもたちを信じられないの?」などと一歩引いてアドバイスしてくれ、これも子どもたちに良かったと感じています。さらにスープの冷めない距離に住んでいた夫の母にも子どもたちはいっぱいの愛情を注いでもらえました。私が若い頃父を嫌っていたのとは対照的に、子どもたちは夫を大好きで、特に次女はファザーコンプレックスではないかと思うほどお父さんを慕っていました。今の次女の夫は仕事を懸命に頑張るところなども夫にそっくりで、仕事が大好きで楽しんでいるというのは長女の夫もそうかも知れません。長女は仕事を続けており次女は専業主婦ですが、きっと子育てが終わったらまた良い仕事をするのではないかと思っています。二人とも家族を第一にしている、という点で私よりも数倍立派なお母さんに成長したのを熊本のおばあちゃんは喜んでいます。
『おとながこどもにできること』 ローター・シュタイマン
この本は、ドイツ人ルドルフ・シュタイナーが提唱したシュタイナー教育をベースに書かれた本です。著者は、シュタイナー学校の先生で7人の子のお父さんでもあります。シュターナー教育関連の本は、ずっと以前、東大に受かったのに中央大教育学部にどうしても行きたいと進学し、後にドイツのシュタイナー学校に先生として留学した塾生がいたこともあり、私も関心を持って何冊か読みました。アマゾンのレビューで「この本は子育てでちょっと疲れたとき一息つきたいときなんとなく気負わずさらっと読めるのに大切なことがちりばめられている 素敵な本です ママ友にも貸してあげて喜ばれました」と書いてあり、パパにもお薦めとも書いてあります。
『ミュンヘンの小学生』 子安美智子
私がシュタイナー教育と出会った本です。1975年に書かれたこの本を、長女を出産した頃読みました。我が子をドイツのシュタイナー教育の小学校に入れた子安さんのこの書は、日本の教育とは大きく異なるシュタイナー教育の良さ、言い換えるなら日本の教育法のマイナス点等についても考えさせられる本でした。この本は何度も興味深く読める本だと改めて感じます。