体育のある予備校は珍しい。壺溪塾には体育の教諭もいる。松木明先生と言って実は壺溪塾の伝説のレジェンドとして32回で紹介した英語の松木秀明先生の息子さんだ。松木先生は真和高校で長年教鞭を執っており、剣道の師範としても有名だ。その松木明先生指導の下、塾生達のうち希望者は、週1回、塾から自転車で10分くらいの県立総合体育館でバレーボールを楽しむ。授業のある前の週の木曜日の朝から窓口に出すボードに登録した塾生が名前を書いて申し込むが、8時半から始まるホームルームの前には申し込みで一杯になる程の人気だ。
新型コロナ禍でしばらくお休みしていた体育は、新型コロナが5類に変わった昨年度から再開した。前塾長木庭令一の時代の1978年7月に塾生の要望でバレーボール大会が始まり、以来、新型コロナ流行のため2020年から2022年まで3回の大会が途切れるが、2023年度から再開し、今年度は41回目の大会となった。前期の授業が終わったタイミングの7月17日に第41回バレーボール大会が熊本県立体育館大体育室にて開かれた。今年度は全部で25チームが参加し、寮生チームやクラスチームに職員チームも混じり熱戦が繰り広げられ、男子はまとまりの良い寮生チーム「unread devil」チーム、女子は「菜央さん」チームが優勝した。私も白線のだいぶ前から打ってよいと言われ、サーブを4本打って3本が入った。
一方毎年9月には伝統ある藤崎宮大祭の先頭行列を塾生が務めるのは、熊本では有名だ。早朝の午前4時半に碩台小学校に集合。そこから塾生たちは各々古武士のような装束に着替え、観客の多い中、熊本市街をおごそかな歩みを進める。塾生が古武士になるのをご存じの市民の中には「来年こそ合格しろよ!」という温かな声を掛けてくださる方もいて、塾生たちは照れ臭そうに笑う。祭りのあと、感想文には「行列は想像以上にきつかった!でもとても達成感があり、受験と似ていると思った。これからの追い込みに役立つ根性が養われた気がする」と書く塾生もいて毎年の壺溪塾の最後の行事となっている。祭り参加は長い間男子のみであったが、1990年に女子が参加させてほしいとの要望が寄せられ、翌1991年から女子の参加も認められて今に至っている。
この体育や藤崎宮大祭参加は、一見、学力の向上とは何の関連性もないように見える。しかし、壺溪塾に1930年から連綿と続く「勉強だけではない」「心を磨くのが大事だ」という教えと密接に繋がっているのがこれらの行事のように思う。面白いことに私が18歳だった頃の塾生の祭り参加の写真と今の塾生の写真を見てもあまり変わらない。髪型や服装は大きく違って来ているが、武者の格好をすると同じ18歳に見えるのだ。伝統と実績、この二つを求めて塾生たちはこれからも進んでいくに違いない。