壺溪塾

わたしを語る

~熊本日日新聞読者のひろばに掲載~

第1回 平凡な私のストーリー

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんによると人は自分のことを語るのが好きだという。そのおかげでフェイスブックは大ブレイクした。他の動物より身体的に強い訳ではない人類は、協力しなければ生きていけないので、多くの他者へ自分をアピールすることが好きと仕組まれ、自分のことをうまく語れる人、また他者の話をうまく聴ける人が人間社会の中で優先的に生き残ってきた。自分を語るのは、サバンナに住んでいた祖先から伝えられてきた大事な能力だ。ただ、この私の人生が、読む人にとって知るに足るものであるかは自分では分からない。また立場があるのでどれだけ正直に語れるか自信がない。戸惑いと逡巡から抜けきれないまま書いているが、私が今塾長を務めている壺溪塾は、卒業生が4万人以上いらっしゃる地元では有名な予備校であるし、私の言を懐かしく読んでくださる方も多いと信じられる。 私は、初代塾長木庭徳治と妻テル、二代目塾長木庭令一と妻澄子ほど個性的で魅力的な人でもなく、まったく平凡な人間だ。しかし、地球上のほとんどの人は平凡と言えるので、その意味で書き方によっては共感して下さる方も多いかもしれない。「わたしを語る」というより私の目を通して身近な人や時代を語ることになるのをお断りしつつ、平凡な私のストーリーを書いていく。私をまったくご存じない方に自己紹介しよう。

私は本名を興梠と言い、塾長になるのを機に旧姓を名乗っている木庭順子です。私が理事長、塾長を務めている壺溪塾は、昭和5年、熊本市内坪井町に誕生しました。私たちは、「単に合格するだけではなく高い知性と美しい人間像の完成を目指す」という教育理念を持っています。壺溪塾の塾生は合格だけを目標としているのではなく、むしろ“心を磨く”ことを目標として日々自己研鑽を積んでいます。私自身もこの目標と出会い、自分が未熟者だと思い知る度に、祖父からのメッセージを心に刻み、前に進もうと努力してきました。壺溪塾では、昭和5年から塾生が毎朝静坐を組んでいます。また体育の授業もあるユニークな予備校です。私は壺溪塾で塾長職をしつつ小論文の講演や添削指導などもしています。また二女の母、一男三女の祖母でもあり、趣味は料理と水泳です。本が大好きなので、時々本も紹介していきます。これからしばらくお付き合いください。

紹介する本:アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』
これはベストセラーの本です。教育大国と言われるスウエーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんは、子どもにも睡眠障害やストレスが増えているのに疑問を抱き、医学論文を読んだり学会に出たりして独自にその原因を突き止めていきます。その問題意識をまとめたのがこの1冊です。彼は、その原因は、一口でいうと私たちの脳は太古から変わっていないのに、あまりにも科学が発達し便利なものが次々と出て来ているのでその状況に対応できないでいることと言います。スマホが面白すぎて中毒になり、スマホから離れられなくなって脳が疲れてしまう。アップルの創始者スティーブ・ジョブスは我が子にiPadを与えなかった、その中毒性を熟知していたからと。