壺溪塾

わたしを語る

~熊本日日新聞読者のひろばに掲載~

第15回 ワイドニュース草創現場で

RKK報道部仲良し4人(河端(現姓古田)由美子さんは左から2番目、私は右)

熊本放送でもっとも楽しかったのは、“食”のレポートだった。甲佐の鮎やなでぴちぴちした鮎を取材し、焼き立てのじゅじゅっとした塩焼きをいただく。菊池の山で松茸取りの名人を取材し、山を持っている旅館で取れたての松茸を味わう。蜂の子を取材したときには小さな白い蛹(さなぎ)を正直食べたくなかったが、美味しそうに口に入れた。地元や店の宣伝になるので歓迎され、どこに行っても「食べて、食べて」の嵐。

一方、歓迎されないネタを取材することもあった。入局3年目頃から企画ニュースを任され、「ベビーホテル」や「キャッチセールス」「荒れる中学生」など問題提起的なテーマを取材した。ベビーホテルでは深夜に母親が仕事場から帰り眠くて泣く幼い子を連れて帰る様子を、レポートする。「キャッチセールス」では、紙袋にボイスレコーダーを忍ばせ、わざと街頭でキャッチされて会場に入り、音声を紹介してのレポートをする。「荒れる中学生」では、荒れていると噂のあった中学を正門のところから実写し、当時の教育委員会から映像を出さないでくれと電話が掛かってきた。どの中学か分からないようにしつつ出した。視聴者からの評判は良かったが、今思えば社会的な影響の大きさも顧みず若気の至り的弾丸レポートばかり連発する生意気なレポーターだった。しかし、ローカルワイドニュース草創期の当時の熊本放送報道部は、私だけでなくデスクも含め「社会正義の実現を!」と燃えていた。自分の机でゆっくりしていると「木庭!ボーっとするな。足で稼ぐ取材に行かんか」とデスクから雷が飛ぶ。また「木庭ちゃん、大事なのは問題意識だよ」と諭してくれる由宇照也キャスターがいた。9年間を通した取材の中で、私の中で消費者問題は一番の問題提起的テーマになった。消費生活センターは、ネタのないときに訪れて自らの問題意識を育てられる宝庫だった。レモンをカリフォルニアから運ぶときに添付する防カビ剤OPP(オルトフェニルフェノール)の発がん作用や豆腐の殺菌剤AF2の長期使用が問題になったことなどを、取材を通じて知った。熊本には、ライ病や水俣病など差別に苦しむ人たちがいて、それと対峙し社会的に闘う人がいることを知った。

目まぐるしくネタを追うニュース報道の世界。キー局ではなかったが、地方局もそれなりにトップニュースを追いかけた。1976年にロッキード事件が起こり当時の首相田中角栄が逮捕されたときに出先から報道部に自分のネタのことで電話したら、当時の友住保弘デスクから「それどころじゃない!」と怒鳴られたことをくっきり記憶している。ローカルワイドニュース草創期の報道部はなにしろ忙しかった。一つの取材が終わったらすぐに次の取材に飛び出す、といった息つく暇もない中にいた。