国境なき記者団が発表する「報道の自由度」調査をご存じだろうか。ウクライナ侵攻中のロシアは180カ国中162位、北朝鮮は177位である。2010年に11位だった日本の順位は年々下がり現在70位。G7(先進7カ国)の中で最低だ。理由の一つとして挙げられているのが記者クラブ制度である。
私も所属していた1970年代後半の記者クラブは、在熊の新聞、テレビの記者やカメラマンだけがメンバーでフリーの記者や外国メディアは入れなかった。
クラブ所属の記者は、例えば九州農政局があった旧合同庁舎の記者室を自由に使用できた。農政白書など各種ブリーフィング(報道発表)も記者室で行なわれ、クラブ員が独占的に出席する。発表された分厚い白書を役所の方が薄い冊子にまとめ説明してくれるのだ。お弁当が出る。その弁当代も税金だ。記者は食べながら冊子の説明を受ける(この弁当はずいぶん前に廃止されたそうだ)。
質問タイムになる。私はその頃から質問魔だった。一番前の席に座り「ハイ」と手を上げる。当時農政白書の冊子には、1行も有機栽培野菜のことが書かれていなかった。私は、「消費者として、無農薬野菜のことが書かれていないのは気になりますが、この調査はされていないのですか」と質問した。しかし、周囲の男性記者たちから「この小娘は場違いな質問をする」という白い目で見られ、完全にアウェイ感満載。しかし私はめげず毎回手を「ハイ」と上げ、鋭い質問をするのを自らに課した。
発表記事を基に記事を書く。この取材姿勢をアクセスジャーナリズムと呼ぶ。もう一方に調査報道がある。調査報道は理想的な報道姿勢だが、なにせ記者には時間がなく資金もない。そこで発表記事に頼ることになる。そうするとお金を出す人(たとえばスポンサー等)に忖度する記事を書きがちになる。アクセスジャーナリズムの対局にあるのは、調査報道、探査報道だ。日本には少ないがネットメディアの中に調査報道をしているジャーナリストたちがいて、この組織は有志の支援金で運営されている。私も支援者の一人だ。この組織はウイークリーマガジンを発刊していて、サイトで読める。大手マスコミでは報じられていない公害PFAS汚染や製薬会社の捏造記事やいじめの歪んだ報道などを知った。
世界では、ジャーナリストが命をかけて報道の仕事をしている。国境なき記者団によると2022年1月から12月までに取材活動に関連して命を落としたジャーナリストは57人に上るという。報道は時に危険と隣り合わせの仕事だが、記者には、命を落としてほしくないし、足で稼いだ調査報道による丁寧な取材を通じて多くのニュースを発掘してほしい。一読者として心から応援している。
紹介する本:『新聞記者』『報道現場』 望月衣塑子
1979年頃、私が記者発表の際に「はい!」と積極的に手を上げ周囲のアウェイ感を募らせてからかなり時間が経った2017年、当時の菅官房長官記者会見で鋭い質問を連発する勇敢な女性記者の姿を見ました。その人が東京新聞の記者の望月衣塑子氏です。その彼女が自らの体験を記した『新聞記者』を紹介します。この本は映画化もされています。当時の菅官房長官は、望月氏のあまりに執拗な歯に衣着せぬ質問に辟易し、東京新聞に不適切な質問をしないよう文書で申し入れをしたほどです。彼女に比べたら私の質問なんて中途半端で子供だましみたいなものだと感じました。
また『報道現場』は、望月氏が日本学術会議の任命拒否問題、名古屋入管のスリランカ女性ウィシュマさんが亡くなった事件などを追いかけ、調査報道に邁進したことを踏まえて叙述されていて問題提起的な著となっています。是非読んでみてください。
紹介する本:『同調圧力』望月衣塑子 マーティン・ファクラー
東京新聞記者望月衣塑子氏と元ニューヨークタイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏が日本にだけ残る記者クラブ制度の弊害を含め、日本のジャーナリズムに潜む同調圧力を問題提起した書です。