長女は言葉を覚えるのが早い子で、1歳半にしてすでに日本語をかなり話せた。私は英会話教室に通いたいと思って長女を預けられるベビーシッターを探し、メイさんという中年女性を見つけたが、彼女の厳格な英語の言葉を理解できないのもあり、長女はとても嫌がった。夫の運転で車に乗ると「メイさん、行かない?」と心配げな面持ちで聞いてくる。1、2回預けたが、「メイさん、行かない?」という可愛い問いに「行かないよ」と答えたくて私は英会話教室に通うのを断念した。
その代わり、UCLAの図書館で企画されていたマミーアンドミーという母と子が集まってゲームなどをする教室に通った。そこで、家族でパスタの店を経営しているイタリア系の女性と友達になった。弁護士の夫を持つ彼女は、女家族でパスタの店を切り盛りしていた。その店の裏ごししたトマトパスタは、あっさりしているのにコクがあり私が食べたパスタの中でもっとも美味しかった。夫の両親と妹が訪ねて来てくれたときにも、家族全員を店に招待しご馳走してくれた。
2回行った英会話教室でマルハさんというスペイン人のおばあさんと友達になり、アパートに招いてくれた。マルハさんは、銀髪を後ろ頭に丁寧に集め小さいお団子にしていて、くるくるとした黒い丸い目が可愛い70代のおばあさん。ロスに住む娘を頼って来たとのことで、独り暮らしをしていた。アパートメントは土足禁止。玄関の横のカーテンを開けて綺麗に並べてある小さな靴を見せてくれた。缶詰をくるくる回して開ける便利な自動缶切り機を使ってウインナーをご馳走してくれた。マルハさんを私のアパートにも呼び、手作りのチラシ寿司をご馳走した。チラシ寿司は大抵のアメリカ人が好きだ。色とりどりの見た目も綺麗だし味も甘くてライスサラダと好評だ。しかし、出した食材の中で一つだけマルハさんが苦手なものがあった。それは海苔だ。四角い海苔を指でつまみ「a black paper!」とヒラヒラさせて叫ぶ。爆笑だった。美味しく健康食の海苔も彼女に掛かれば黒い紙か!
サンタモニカの海岸で金髪のミッキーという男の子のお母さんミーガンに声を掛け、ランチに招き、招かれた。平屋だが広い清潔な一戸建てに住む彼女の夫は、高級住宅街ビバリーヒルズにある美容室のヘアデザイナーということだった。彼女が何種類ものサラダをテーブルに乗せるといたずらっぽい青い目をキラキラさせながら1歳半のミッキーがテーブルクロスをさっと引き、せっかくのサラダが台無しになった。ミーガンは明るくあはは!と笑いミッキーを叱ることはしなかった。私も笑顔で無事だった野菜をお皿に戻した。家からはサンタモニカの海まで歩いて行ける。ランチ会に来ていた同じくらいの子とお母さんたちと海に遊びに行った。
また1989年1月の長女の2歳になる誕生日には、それまで知り合った親子を招いて、鶏のから揚げやケーキでささやかな誕生パーティーを開いた。
日本人なんて余り関心も持たれず黙っていては無視される。そう感じ、私は日本の良さをアピールしたいと会う人をランチに誘い誘われ交流を深めた。