アメリカ体験でもっとも勉強になったのは、日本人は世界の中でマイノリティーと実感したことだった。1989年1月、昭和天皇崩御のニュースをロサンジェルスで知った。日本の放送局では天皇が万が一お隠れになった日はそれをXデーと呼んで、すぐに特別放送に切り替えるということになっていた。友人に聞くと、日本ではすべてのチャンネルが数日それ以外を報道しなかったという。しかし当時の私が住んでいたロサンジェルスでの報道は天皇がアメリカに御幸された際の馬車に乗られた映像が数分流れたくらいで扱いは決して大きくなかった。
世界の中で日本はいかに小さくて存在感がなく一顧だにされないか。差別感は目に見えない形で、また目に見える形でアメリカ社会の様々な場面に存在する。日本人はマイノリティーだ。日本は欧米からすると極東(Far East)なのだ。テレビにも日本はほとんど出てこない。出てきたと思ったら、経済大国日本の顔の見えない不気味さの強調ばかり。私がロサンジェルスで生活していた時代は、もちろん今大活躍中の大谷翔平選手もいないし、その頃大リーグで活躍する日本人選手もほとんどいなかった。一方トランプ以降先鋭化したアジアンヘイトもまだあまり見られず、とにかく日本人に対しての注目度はとても低かった。
そんな中、唯一日本の良さをアピールできたと思えた番組があった。それは“セサミストリート”の「Big Bird in Japan(ビッグバードがやってきた)。この番組は、NHKの教育テレビでもあっていたので、ご存じの方も多いと思うが、黄色い羽根の大きな着ぐるみのキャラクター、ビッグバードが東京に行ったという特集だ。大きな図体のビッグバードが新宿の雑踏でうろうろしている。「おはよう」と皆が言っているのでここは「オハイヨか」とトンチンカンなことを言う。日本人の綺麗な女の子と出会い、竹取物語の世界も紹介され、かぐや姫が月に登る美しいシーンもあった。途中で電話が鳴り、仲良くなったミッキーのママのミーガンから「順子、日本が出てるよ、セサミストリート見てる?」と。次の日、公園で長女を遊ばせていると「オハイヨ!あなた日本人でしょ?昨日見たわよ。日本って素敵な国みたいね。行ってみたくなったわ」と中年女性に声を掛けられた。うーんテレビって大事だなあ、テレビを使って日本をもっとアピールできないのかと思った。韓国は国策で自国の歌手やグループを売り出す世界戦略を持っている。日本の芸能界はスキャンダルがあったりして少し情けない。
2024年9月15日、真田広之氏がプロデュース及び主演を務めた「SHOGUN将軍」がエミー賞をとった。真田氏が拘ったのは「オーセンティシティー(本物志向)」だそうだ。歴史考証や衣装、所作などに専門家を配した。またほとんどのセリフが日本語だというのも素晴らしい。しかし売り上げはディズニーに入るので、日本の財政を潤わせるわけではないのは残念だ。ただし製作費が350億と巨額なのはディズニーが世界配信を行う作品だからこそではある。私は入っていないが、日本では、ディズニー+で配信されるという。今回は、真田氏の個人の努力が大きいが、国を挙げて日本を海外にアピールできるオーセンティシティー(本物志向)のドラマが増えるのを期待したい。