「VUCA時代」という言葉をご存じだろうか。VUCAはVolatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑さ、Ambiguity=曖昧さの略だ。少子化と入試改革とが相まって、全国の浪人生数は激減し、浪人という言葉が死語になる日も近いと言われている。教育現場も不確実で曖昧ですぐに変動する複雑な状況にある。その中で、大切なのは純粋な信念を失わないこと、刻々と変わる状況を読み解く情報リテラシーと勇気ある行動力を身につけることである。
変動している入試改革で、日本が後れを取っているといわれるICT教育が注目を集めている。高校では「情報」の授業があり、共通テストにも「情報」が新年度から課される。タブレットやスマホを使った学習も導入されている。
しかし情報はそれを取り扱う技術を磨くことも大事だが、何より正しい情報を見抜く力、フェイクに騙されず情報を取捨選択する能力、情報リテラシーを磨くことが大事だ。その意味で、壺溪塾の専門学校部門に2025年4月から新しくスタートする「情報キャリア科」では、新聞社の編集委員や放送局のディレクター、“起業”の授業を得意とする大学教授等に「情報リテラシー」の講義をしてもらう。現場のビビッドな一次情報を塾生に届けたいからだ。
忘れてはいけないのは、教育の本質とは何か、ということである。私は子育てを通じて、また壺溪塾での塾生指導を通じて、それは教育空間に学ぶ者と学びを授ける者が同時にいて、双方向性のオーラを互いに出しながら、共に成長していくことで実現すると実感した。
また壺溪塾では講師や教務職員のうち数名の有志が、自腹をきって受験料を払い毎年共通テストを受験している。これは時間制限や周囲の雰囲気を実際にその空間で体験し、それを塾生指導に役立てるためだ。彼らは塾生の篤い信頼を得ている。たとえばセンター試験の時代に国語の全国平均点が5割を切った年があった。毎年受験していた講師は国語がまったくできなかったと蒼ざめる塾生に「大丈夫だ、いつも8割はいく自分もとれなかった。今年は国語の点数が2桁(200点満点中)でも東大に合格する人がたくさん出るから」と伝え、その後の教科で落ち着きを取り戻させた。
空間の共有を講師までしている壺溪塾はユニークな予備校である。東大クラス生の合言葉は毎年受験して高得点を取る数学と化学の講師への「打倒!○○先生」だ。自習は各自が孤独にやるにしても、その姿に互いに生で触れるということに価値がある。
壺溪塾では、VUCA時代だからこそ教育の本質を重んじ、フェイクではない同じ空間で実体に満ちた交流をしながら「美しい人間像の完成」を目指していきたい。ICTはツールにしか過ぎない。本質を理解したほんものの組織だけが生き残ると信じている。