令和6年度 熊本大学入試解答速報!
(注)このページに掲載の解答は速報版ですので、熊本日日新聞に掲載されたものとは異なる場合があります。また、解答や解説に訂正等があった場合は、予告なく変更する場合があります。ご了承ください。
令和6年度 熊本大学個別学力試験 解答速報(2024.2.25)
壺溪塾では地元熊本の予備校として、熊本大学から出題される前期試験の入試問題研究を永年に亘り行って参りました。また、毎年、詳しい熊本大学入学試験解答・解説集を作成しております。さらに例年、壺溪塾のホームページに解答の速報版をアップし、二次試験の翌日には熊本日日新聞紙上に壺溪塾作成の解答が掲載されます。ここには、新聞紙上には紙面の都合で掲載されない小論文、地学の解答例も含めた全体をまとめました。ご参照ください。 |
英語 | 国語 | 小論文 | 数学@ | 数学A | 数学B | 物理 | 化学 | 生物 | 地学 | |
分量 | 昨年並 | 昨年並 | 減少 | 昨年並 | 昨年並 | やや増加 | やや増加 | やや減少 | 昨年並 | 昨年並 |
難易度 | やや難化 | 昨年並 | 昨年並 | 昨年並 | 昨年並 | やや難化 | やや難化 | 昨年並 | やや易化 | 昨年並 |
大問1 | 難 | 標準 | 標準 | 易 | 標準 | 標準 | 難 | 標準 | 標準 | 標準 |
大問2 | やや易 | 標準 | ― | やや易 | 標準 | やや易 | やや難 | 標準 | やや易 | 標準 |
大問3 | 標準 | 標準 | ― | 標準 | 標準 | 標準 | やや難 | 標準 | 標準 | やや難 |
大問4 | 標準 | 標準 | ― | 標準 | やや難 | 難 | ― | ― | ― | 難 |
解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | 解答 | |
解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 | 解説 |
問題総評
2024年度の熊本大学個別学力試験の問題は、教科によって差はあるが、昨年度に引き続き思考力を問う出題が多かった。当然のことながらきちんと勉強した受験生の方が有利な問題がほとんどであったものの、何をどこまで論述するべきかといった点で悩む問題も少なくなかった。数学など大問がいくつかある場合は、満点を狙うのではなく、自分の解ける問題に地道に向き合い、時間をかけて解き切る姿勢が合否を分けることになる。ということは、普段から記述式の問題の1問1問を、思考力を働かせながら書くことの訓練を積んできた受験生がミスなく取り組めば、ある程度の得点が望めるということだ。
実質倍率が3.4倍と高く、県外からも注目されていた情報融合学環については、共通テスト450点、個別学力試験は550点の配点であり、理系と文系とも比率は異なるが英語と数学が課されたので、この二教科の記述力が合否を分けたと推測できる。特に英語はTが死と老化を扱う若者には関心の強くないテーマであり、35字以内にまとめる技術力が問われる出題だったので、ここを無難に乗り越え、U以降の標準的な問題で得点を重ねた受験生が有利だった。医学部医学科は数学のうち医学科のみに出題される大問と物理が難化し、英語を順当に得点し、数学の解きやすい問題をきっちりとおさえた受験生が有利だと思われる。 国公立大受験者にとって最初の関門となる共通テストは、一昨年よりも平均点は上がったが、依然として高得点の取りにくい問題となり、センター試験の頃よりも読解力や思考力を問う問題が多く出題されるようになった。普段から個別学力試験に向けて手を動かし記述式の問題に取り組んで、思考力を磨いていた受験生に有利に働く。共通テストも熊大からの個別学力試験も、高校や予備校で思考力を問われる問題と向き合い、自力で解くということを大事にしてきた受験生とそうでない受験生との差がつきやすい結果になったと思われる。 |
Tは「死と老化の関係性について」を扱い、若者には関心の薄いテーマであったことと、解答においてこれまで〇字程度とあった字数制限が、〇字以内という限定されたものになったことで、内容はある程度分かるがまとめにくいと感じる受験生が多かったと思われる。ここには読解力と共にどうまとめるかという広範囲の国語力が問われることになる。
Uは文章量が増えたものの、読み取り易い内容であり、設問数が減り語句整序になるなど問題自体も易しかったので、ここで得点をしたいところだ。 Vの自由英作文はCOVID-19についてであり、受験生としては書きやすかったのではないか。 Wは空欄補充問題だが、語形変化が増えたので、標準的な問題だが、ケアレスミスをした受験生もいたと思われる。きちんとした文法力が問われる。 全体的にTが難しかったので、ここで戸惑い比較的取り組みやすいU以降で冷静に建て直しを図れたかどうかで差がつく。分量は例年通りだが、全体的にやや難化としたのは、そのような受験生の心理を慮ってのことだ。Tで課されている35字以内をせめて45字前後という出題の仕方にしていただければ、得点率が上がったのではないか。まとめる力を試される良問とは言えるし、受験生には、字数に合わせて書く訓練をしてほしいという熊大からのメッセージを受けとめて、英文を読解し、字数制限に合わせて日本語で書く手際の良さを磨く努力をしてほしい。 |
解説
大問一 現代文(鈴木宏昭『私たちはどう学んでいるのか 創発から見る認知の変化』による) 大問二 現代文(水村美苗『続 明暗』による) 大問三 古文(『義経記』による) 大問四 漢文(陸杲『繋観世音応験記』による)
大問一 大問二 大問三 大問四 |
解説
課題文の出典:(アミン・マアルーフ/小野正嗣 訳『アイデンティティが人を殺す』による)
解答字数および主な出題形式の面では、十年以上変わらず今年度も、課題文を読んだ上で自分の意見を1000字以内で論じさせる出題である。ただし、課題文の分量は、昨年度の約半分である1500字未満となり、激減した。また、課題文のテーマや設問形式の面でも変化が見られる。まずテーマについては、直近2年は「討論型世論調査」や「安楽死・尊厳死」という社会科学系や医療系の学部で志向されそうなものだったが、今年度は「アイデンティティの複雑性や複層性、その形成や変容」であり、2021年度までの出題(「読書」や「コミュニケーション」など)に通じる、いわゆる人文科学系の中心的テーマに戻った。さらに、設問形式も回帰した感がある。すなわち、課題文に傍線部が引かれ、設問において「傍線部の筆者の見解」と関連づけて問う形式も、やはり2021年度以来であった。 こうしたテーマ・設問形式は、壺溪塾の熊大小論文対策において中心的に取り上げてきたものであり、昨秋の熊大プレテストや2月11日の熊大プレ過去問演習会を含めて、壺溪塾講師の授業やアドバイスに沿って練習を重ねてきた受験生にとっては、特に力を発揮しやすい出題であったと言える。 以下、もう少し詳しく出題の内容を紹介しよう。 課題文の出典は、アミン・マアルーフ(小野正嗣 訳)『アイデンティティが人を殺す 』(ちくま学芸文庫、2019年刊)。筆者のアミン・マアルーフ(Amin Maalouf)氏は1949年レバノン生まれのジャーナリスト、作家。ベイルートの大学で学び、日刊紙のジャーナリストを務めたが、1975年のレバノン内戦を機にフランスのパリに移住する。『アラブが見た十字軍』刊行後は創作に専念する。主な作品に『サマルカンド年代記』(1988年、フランス新聞協会文学賞)、『Le Roche de Tanios(タニオスの岩)』(1993年、ゴンクール賞)などがある。なお、小論文の出典が翻訳文であることは比較的珍しいが、熊大文学部前期試験小論文では2020年にも英語から翻訳された課題文が出題されている(ミゲル・シカール『プレイ・マターズ 遊び心の哲学』)。 解答上のポイントは、傍線部および設問が示すとおり、@〈各人のアイデンティティを構成する諸要素の間に常に存在する上下関係は、時とともに変化し、人のふるまいを根底から変える〉という筆者の見解をふまえたうえで、A「日常生活でのアイデンティティの形成、変容のメカニズム」について自分の考えを論じること、であるが、その際に、B「アイデンティティの形成、変容のメカニズム」は筆者の述べる「紛争や迫害の恐怖の例」だけでなく「喜び、楽しみを生むこともある」という設問の示唆も考慮して論じる必要がある。 そこで、答案では、まず@について、傍線部を課題文全体の文脈に沿って説明し、自らの読解を示す必要がある。そのうえで、Aについて、自らの意見・立場を明示し、そのように考える理由・根拠を挙げて、課題文の提示した論点とすり合わせながら、論理的に述べることが重要である。加えて、Bも考慮して、アイデンティティの形成・変容が〈日常生活において喜び・楽しみを生む〉という点も具体例を挙げて論じることができれば、説得力のある答案となる。 したがって、やはり今年度も、課題文そして傍線部の内容を理解する読解力、それを的確かつ簡潔に要約する表現力が問われることに変わりはない。さらに、意見論述に際しては、〈アイデンティティの帰属が単一のものでも絶対のものでもない〉という筆者の見解にしっかりと関連付けつつ、自分の意見として何を提示するかという応答力や思考力、その意見を形成するための論理性、日常生活における例示も含めて論じられる説得力が、答案の評価に大きく影響すると思われる。加えて、今回のテーマは前述のように、個人の存在や社会との関係を考えるうえでも不可避なアイデンティティという、人文科学系の中心的テーマの一つであるため、熊大文学部で学ぶことを志望する受験生の興味・関心や問題意識をも読み取りたい、という出題意図もうかがわれる点で、正統的かつ良心的な出題へと回帰したと言えよう。 |
【数学】
解説
■数学@
大問1: 三角関数、数列(数学U・B) 昨年に引き続き全体として易しかった。全体をみても標準的なセットであり、特殊な知識は不要であるがゆえ、しっかりと勉強して入試に臨めたかで点数は変わってくるものと思われる。一見すると解きにくそうに見える大問1や大問2も、実際に手を動かして考えてみるとそうでもない問題である。解答にあるように書きだしていくという基本に立ち返ると楽に解けることに気づけてほしい。大問3は厳密な議論が本当は必要であるが、文系が解く問題で、制限時間がある入試ということを考えると難しかったかもしれない。大問4は理系と共通の問題であり、少し難しく感じた受験生もいたのではないだろうか。合格必要点を考えると大問1と大問2でどれだけ点数を重ねたかが合否を左右する。
大問1: 微分、積分(数学V) 複素数からの出題がないだけでなく、数Vからの出題が簡単なもの一題のみであり、例年にない構成であった。数学Vに不安の残る、現役生をはじめとした受験生にはありがたいセットだったと言える。大問1は根気強く丁寧に計算をすれば良いだけなので、完答したい問題であった。大問2は文系と共通の問題でもあり、理系としては点数を稼ぎやすい問題であった。問1が出来なくても問2以降は解けるため、諦めることなく臨むことの重要性がわかる。大問3はcosだからと余弦定理を使うと計算が煩雑になる。正弦定理などを用いて解く方が良い。見通しを立てて計算できればストレスなく完答にたどり着けるに違いない。大問4は初項が与えられておらず、なかなかお目にかかれない問題であり面白いが、面食らった受験生は多かったと思われる。総合すると、大問4以外でどれだけ点数を積み上げられたかが合否の分かれ目になる。
大問1: 確率、積分、極限(数学A・V) 高得点が続出した昨年と比べ、手を出しづらい問題も含まれており、高得点を取るのは難しい。そういう年は、確実に解ける問題を落とさないことが重要になってくる。今年で言えば大問1は完答しないと合格はおぼつかない。大問2も入試としては頻出問題と分類されるため、合格するためには必答であろう。大問3はさほど難しくなく、大問4と比べると明らかにとりやすい。いかに丁寧に解答を書いていけるかが問われる問題であった。大問4も問1は一般的な問題であるが、問2は個数が問われているわけではないため、答えにくい。問3もやりたいことは理解できるがそれを示すには手間がかかり、どう書けばよいか悩んでいるうちに時間切れ、となった受験生も多いのではないだろうか。大問4以外の3問で何点を取れるかの勝負であることを考えると、標準レベルの問題を丁寧に議論していく癖をつけることが合格の鍵となる。 |
【理科】
解説
大問1: 力学「万有引力による静止衛星の運動と宇宙エレベーター」 大問2: 電磁気「交流電源に繋がれた直列RLC回路」 大問3: 波動「ヤングの干渉と3つのスリットの干渉」 今年度の問題はどの大問も難易度が高く計算量も多かったが、何より「1問20分で思考過程も含めた答案を作成する」ことが3問とも非常に困難であったと思われる。医学科受験生であっても難しく感じたはずで、予想ボーダーラインとしては医学科で7割弱、それ以外の学科であれば4割弱ではないかと予想される。今年度も「問題文には単位が与えられているのに解答欄には与えられていない」という形式が取られていた。よって答えに単位を付けていない場合、減点対象となっている可能性はやはり今回も捨てきれない。 大問1は前半が静止衛星、後半が宇宙エレベーターからの出題であり、最近では大阪大で2021年に出題されている。静止衛星の原理を理解していれば、角速度をωとしたときにωT=2πの関係式が成り立つことに気付くのだが,この関係式を使わないと(問2)以降の問題を解くときに遠回りの計算をすることになって時間を浪費することになる。後半の(問4)以降も「ケーブルを取り付けることによって静止衛星の角速度が常にωに等しい」ということと、「静止衛星は(r+L)ωの速さで移動しているから運動エネルギーを持っている」ということに気が付かないと方針が立たなかったものと思われる。 大問2は交流回路からの出題で(問3)までは比較的標準レベルの設問であったが、対策をしていなかったり苦手意識を持っている受験生にとってはかなり得点率が低くなったのではないかと予想される。抵抗が2つあるが、直列なので合成して抵抗値(R+r)の1つの抵抗だと考えられれば(問3)も答えは出せたはず。(問5)に関しては解答のように2次関数に帰着させて解く方法の他に、相加平均相乗平均を用いて解く方法や、微分して極値を求めるといった方法もある。 大問3は3年連続で原子物理からの出題とはさすがにならず、波動分野のヤングの干渉からの出題であった。(問2)までは基本レベルでこの2問は落とせない。スリットが3つになった(問3)からが勝負だが、類題を解いたことがあるかどうかで正答率に大きく差が出たものと思われる。(問5)以降も波の式の足し合わせにおいて三角関数の和積公式を用いるといった計算処理は、九大レベル以上の問題でないと中々目にすることはないはずで、題意がつかめなかった受験生も多かったであろう。(問6)では条件を満たす位置が2箇所あるということも若干いやらしい設問となっていた。 |
解説
大問1: 無機金属 大問2: 酸・塩基、電離平衡、高分子 大問3: 有機化合物の構造推定 昨年同様、論述問題がほとんどなく、思考問題と呼べるようなものはなかった。計算問題は煩雑になりすぎないような配慮を感じる数値設定であったが、計算問題の数が多かった。グラフを書かせる問題も熊大としては珍しく、最低でも3点はpHを求めて計算するべきであり、計算量が増加することになる。また、久しぶりに導出過程を書かせる問題が出題された。全体的には標準的な難易度であり、化学反応式もよく見るレベルのものが多かった。大問1の問1アは新課程と旧課程で扱いが異なるものが出題されている。大問2ではフッ化水素を題材としているが、電離については実際の挙動と異なる出題となっている点が気になる。また、問3のイは近似を使って模範解答を書いているが、計算して得られる電離度は近似できるほど小さくないため、近似を使わず二次方程式を解く必要がある。制限時間のある入試において、どの程度の厳密な議論を熊大が要求しているかは不明であり、できる受験生が戸惑う要因となっている。また、問4の化合物は教科書によっては記載されていない化合物であり、簡単な化合物ではあるが不公平感は否めず、性質についても「水に難溶である」などの高分子としては“一般的な”性質でも良いのか疑問が残る。大問3の有機化学は常識的な観点からは答えが一意に定まるが、“理論上は”他の化合物も候補になりうるのではないだろうか。フェノール二分子が含まれることに気づきさえすればかなり易しい問題であり、医学科志望であれば完答できてほしい問題である。 |
解説
大問1: 遺伝子、神経 大問2: 眼の構造と感覚器、植物細胞と応答 大問3: 循環 例年通り読む量が多く、論述問題には趣旨が伝わりにくい問題もあった。全体的に途中までは簡単な小問が続く問題構成であったため、総合すると比較的平易であった。一般的な問題集を用いてある程度演習をしていれば、60分の制限時間内で高得点が狙えるだろう。ただし、例年のことではあるが、難しくはないもののどう書くべきか迷う問題も含まれていた。今年は多くの学生が学習していないであろう内容も含まれており、面食らった受験生もいたのではないか。また、図を書く問題は新傾向であり、様々な能力を問いたいという熊大の意図を感じる。知識が正確に入っていればある程度高得点が取れるため、基礎知識の定着と論述問題への対応力強化が合格の鍵となるだろう。 |
解説
大問1: 大気大循環と海水の運動 大問2: 表層地質図とその読み方、大量絶滅 大問3: 地球の重力、ジオイド、地球楕円体 大問4: 惑星表層の水と水・炭素の循環 昨年に比べて計算問題が大幅に減少し、文章で解答させる問題が多くなった。天文分野の出題はほとんど無かった。大問1の太平洋高気圧下の海水の運動を答えさせる問題は、これまで見られなかった。大問2では2018年度以降、出題がなかった表層地質図が取り上げられた。大問3の重力に関する問題は、専門地学ならではの出題である。ジオイドの凹凸と地球楕円体の形の問題や、赤道と両極での重力の大きさを説明する問題では、字数制限が無いためどの程度説明するか迷った受験生もいたと考えられる。大問4の地球表層の水の種類と割合の問題は、知識が必要となる。水や炭素の循環の問題は、授業で余り扱われていない分野からの出題である。 |
大学予備校
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(くまもとし・ちゅうおうく・うちつぼいまち)
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